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午前2時。街はまだ生きている。電飾に飾られ、人々は酒に酔う。

リビングに置かれた大き目のテーブルの上、2対のクリスタルグラス。

その中の一つに少量残っているシェリー酒を一気に喉に流し込んだ。

記憶が散乱してしまっている。一つずつ整理してゆく事に決めた俺は、

紅茶を入れるため、ポットにミネラルウォーターを入れ火に掛け、

暫くそこに佇んでいた。

確か夕べ早い時間に、恋人から電話があった。

彼とは幼馴染で、今では供に仕事をしている。

が、それぞれの担当分野が違う事もあり最近では月に2度、

逢えるか逢えないかで居た。

久し振りに聞く彼の声は、俺の記憶していた奴の声、

そう、いつでも俺を気使ってくれて、

ベッドの中で俺に囁き掛ける時のままだった。

「逢いたい」と言う彼の電話を切ってから、ほんの30分ほどで、

玄関のチャイムが鳴った。

扉を開けると、いとしい彼の微笑みがあった。

俺はいつものように軽くハグをし、招き入れる。

「これ」と言って彼が差し出したのは、さっき飲み干したシェリー酒。

「珍しいね。どうしたの?こんなに強いお酒を持ってくるなんて?」

問いかける俺に、彼は肩をすくめて見せ、

「外は寒い。これくらい強くなくちゃ、お前も俺も暖められないだろう」

と言いながら、戸棚からグラスを持ってきて、甘みはあるが眉を顰めてしまうほど

強い其れを注ぎいれた。ソファーに腰を下ろし、「此処に座れ」と言わんばかりに

手招きしてくる。俺は微笑んで彼の隣に腰を下ろした。

「久し振りだね。元気だった?」

「同じ仕事なのにな…。逢いたかった。」

「僕だって…。ねぇ、キスして?今夜は居てくれるんでしょう?」

「そのつもりだよ。」

彼のキスは、何時も優しい。時に乱暴になる其れは、俺の安定剤でもある。

シェリー酒を口に含み、そのまま俺に口付けて来る彼に腕をまわし、

軽くしがみついた。

「ベッドへ、連れて行って?」

次の瞬間、俺の身体は軽々と抱え上げられ、ベットルームへと

ワープした。






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「ふ…ぅん。」

何となく腑に落ちない。なぜ記憶がこんなにも欠落してしまったのか?

俺はそんなに酒に弱い方ではないはずだし、

第一、 いとしい人の訪問さえさっきまで記憶されては居なかった。

暫くキッチンカウンターに、手をついたまま考えていると、

「ピーっ!」

けたたましくやかんの音が鳴り響いて、湯が沸いた事を俺に知らせてくる。

「まだ寝ているのかな…?」

とりあえず2つのティーカップを用意し、紅茶を入れた。

「ねぇ?起きている?」

ベットルームのドアーを開けつつも、声を掛ける。

半分ほどドアーを開けたときに、俺に耳に聞こえて来たのは

誰かが啜り泣いている様な声だった。

「?」俺は、少し警戒しながらも、ドアーを開け放った。

「誰?!」彼の名を呼ぶも、返事は無い。俺の目の前のベッドの上、

こちらに背を向けて泣いている。

俺の愛しい人。もう一度名前を呼ぶべく唇を動かした瞬間、彼の声が聞こえた。

「御免、俺…」

「何?僕ならこっち…に……えっっ?!」

ベッドを覗き込んだ俺の目前、愛しい彼の腕の中で「俺」がぐったりとしていた。

思わず持っていたティーカップを床に落とす、が音は聞こえてこない。

震える足を前に押し出し、愛しい人に恐る恐る触れようとした。

――――――――――触れない―――――――――――

ティーカップを落としてしまった床を見る。音もなく壊れたはずのそれらの破片は、無かった。

「何?何?何なのっ、ねぇ!」

しがみつきたくても、触れない、触る事も出来ない。

愛しい人の顔を覗き込む。

息が掛かる程の距離に居るのに彼は気付いてはくれない。

それどころか、泣きじゃくり、俺であり俺ではない身体を抱きすくめ何かを呟いている。

「俺も逝くから、すぐに逝くから、許してくれ。愛しているよ。」

そして、何かを口に入れ噛み砕いた。俺は自分の身体を見つめていた。

そういえば、口移しに呑まされたシェリー酒。

そのときに、喉の奥に何かが引っかかった気がした。

「DRUG?」何故?何故彼は、俺を殺した?何のために?そして今まさに、

俺の身体を抱きしめたまま、彼も眼を閉じようとしている。

「駄目!ねぇ!眠っちゃ駄目!僕はここに居る!生きてるよ!」

多分俺はもう死んでいるのだろうが、彼を死なすわけにはいかない。

俺は叫び続けた。だが、目の前の彼はゆったりと身体をベッドに預け息を止めた。

「!!!!!!!!!!」

泣き叫ぶ俺の耳に、かすかに足音が聞こえた。

「誰?!」振り返った俺の目に飛び込んできた光景。

ベットルームのドアーを開け、顔を覗かせる人。

「どうした??」

「…お前…な、んで?」

座り込んだまま彼を見上げる俺に向かって、彼はいう。

「いいじゃないか。もうこれでずっと一緒だ。紅茶を入れよう。寒いだろ?そんな格好で。」

「どうなっているの・・・?」

「お前と一緒に居たかったんだよ。御免な。」

「僕達、死んじゃったんでしょ?今までしてきた事は?友達は?」

泣きじゃくる俺を抱え上げ、キスをする。

さっきまで触れる事の叶わなかった愛しい人の身体。

伝わってくる体温に、なぜか安堵感が俺を支配し始める。

「ずっと愛してる。お前は俺のものだ。この身体も、声も命さえ…」

「お、まえ…。」愛撫をされる俺の身体。そうだ、俺は殺された。

愛しい愛しい恋人に。

それでも、彼の愛撫にこの身体を任せていられる間は

そうしていよう…。




愛している。愛しているよ、ねぇ、キスして?






×END×


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