太陽のような男がいた。
月のような男がいた。
太陽のような男は深い愛をもって私に手を差し出した。
月のような男は凍えてしまうような目付きで私を一瞥した。

私は、月のような男の足元に膝まずいた。

月のような男から与えられるものは、虚無だった。
私は、何度も何度も繰り返し懇願する。
せめて指先に触れさせてください。
thrillを欲してやまない私は、懇願し続けた。
それでも、月のような男の瞳に私が映ることはなかった。

太陽のような男は、そんな私を見つめ続けた。
慈愛を込めた、暖かい両の眼で、私を見つめ続けた。
月のような男から与えられた虚無に、耐えられなくなった私の逃げ場は、何も言わない太陽のような男だった。
暖かく優しく私を包み込み、私のわがままをすべて受け入れてくれた。
太陽のような男は、自らによって癒された私を、再び、月のような男のもとへ送り出した。

ある日、月のような男は、自分の足元に転がる私を抱き上げて、くちづけをした。
冷たい、氷のようなくちづけだった。
私は更に男に溺れた。
くちづけには熱があったけれど、男の体は冷めていた。
私はどうにかして、男の体に私と言う熱をともそうと、必死になって体を密着させ、繋がった部分を擦りあわせた。
日に数回、繰り返されるその行為自体に私は溺れていた。
月のような男が果てる、そのときだけに聴かせてくれる、偽りの愛の言葉が私を果てさせ、更に深淵へ引きずり込んでいった。
偽りの愛を語り、体液をまざり合わせるだけの行為。
それが終わると、月のような男は、また、私などには目もくれなかった。
故に、男が私の中に残していく体液を指で掻き出し、それを舐め続けることだけに、私は心を砕いていった。

太陽のような男はそんな私を見守った。
影になり日向になり、私を支え続けた。
それはまるで、母が子に向ける愛―無償の愛―にも似ていて、私は更に、太陽のような男を都合よく使っていった。

太陽のような男は、月のような男と友人だった。
歌をうたい、酒を酌み交わし、冗談を言い合うそんな仲だった。
私は、太陽のような男といるときだけ笑う、月のような男が好きだった。
そして、その笑顔を独り占めしている太陽のような男に嫉妬していった。
月のような男は、私がその笑顔を盗み見して居ることに気がつくと、顔を背け、私に背を向ける。
その笑顔は、正真正銘、太陽のような男のものとなった。

毎夜、私を抱く月のような男。
その顔には笑顔は無い。
私は、ある思いを胸に抱くようになっていた。



私は、月のような男の笑顔が観たかっただけ。
私は、月のような男の笑顔を独り占めしたかっただけ。
そう、笑顔を私に向けて欲しかっただけなのに。



ある晩、月のような男との情事が済んだ後、ベッドで眠りこんだ男を置き去りにし、
私は下着姿のまま部屋を抜け出し駆け出した。
向かった先は、森を抜けたところに位置する小高い丘の上にある、太陽のような男の住処。
男は、深夜の訪問に少しも驚くことは無く、私を部屋に招きいれ、下着姿の私の肩に男のガウンをかけた。
素足で森をぬけた為に、傷だらけになった私の足先を温かい水で洗い、薬をつけていく男。
その顔には、いつもと変わらない優しい微笑が乗せられていた。
熱いミルクで体を暖めた後、男に招かれ、男とともにベッドへ入る。
何度も経験して来た事だった。
何度も経験して来たけれど、男が私の肌に触れる事は一度たりとも無かった。

暫くの後、男は安らかな寝息を立て始める。
私は、その横でシーツに包まったまま、その時を待っていた。
ゆっくりと起き上がった私は、下着の中に隠し持ったナイフを取り出す。
そして、逆手にそれを握り、大きく振りかぶると、一気に太陽のような男の心臓めがけて振り下ろした。


帰り道、私は嬉々としていた。
来た時と同じ素足で森を駆け抜ける。
愛しい月のような男の待つ住処へと走った。
ドアを開け、先ほど抜け出したベッドルームへと急ぐ。

ベッドの上、月のような男は消えていた。

家中を探す。
あちこちにあるクローゼットの中まで探した。
男は、何処にも存在しなかった。
私は、ベッドの上で途方に暮れた。

そして翌朝。
この世から、朝というものが消えていた。
太陽の昇らない朝など朝とは言えず、この世は暗闇に包まれていた。
夜になった。
そこは暗闇ばかりが広がっていて、月は見えなかった。

私は、一人取り残された部屋で悟った。

私は、太陽を消してしまった。
それ故に、太陽の光を浴びて輝く愛する月すらも消し去ってしまった。



私は、月の男の笑顔が観たかっただけ。
私は、月の男の笑顔を独り占めしたかっただけ。
そう、笑顔を私に向けて欲しかっただけなのに。



私が知ったのは、太陽が無ければ、月など無だという事だった。


×END×



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★後書き★

私の傍にこういう男性が居まして、本当に太陽みたいな人と月みたいな人なんです。
ちょっとこう、お話にしてみたらどうかなと思い書いてみました。
制作期間は三日ですw
2011/1/23





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